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インターネット時代の著作権:ゲーム制作の素材選択

 名曲や名演奏を自分の作品に使いたいと思ったことはないだろうか。過去の作品は発表されてから一定期間が経っていれば著作権が切れて、作品の素材として利用することができる
 著作物の使用を日本国内に厳密に限定できるのであれば著作権は意外とわかりやすいものだ。しかし、インターネット全盛時代では他国での著作物の扱いも考慮しなければならない。さらにゲーム開発においては自分が著作権を侵害しないだけでなく、ゲームの利用者が著作権を侵害しないかについても配慮する必要がある。ここではインターネット時代における著作権や著作物の利用方法について解説する。

著作権

 創作者は創作物を公表した時点から一定期間法律によって著作物から得る利益が保護される*1。こうした創作者の利益を保護する権利を著作権という。著作権を不当に侵害して利益を得た場合、創作者が得るはずだった利益を賠償したり、刑事罰を受けることになる。
 著作権があるものを利用する場合は著作者の許諾が必要になる。利用には著作物をそのまま使う場合だけでなく、編曲やアレンジなどの間接的利用であっても承認が必要だ。引用や教育目的の利用など一部法律で使用が認められた使用方法もあるが、パロディや二次創作などは著作者に訴えられた場合には著作権の侵害になるだろう。
 ただし、著作権は無期限に与えられるわけではなく、国によって定められた期間を過ぎるとパブリックドメインして保護されなくなる。日本の場合、作者の死後70年*2経つと著作権が切れるため、自由に利用できるようになる。

著作隣接権

 著作物の直接の創作者ではないが、それを演奏したり、編曲したりなど著作物を伝達する者には著作隣接権が与えられる。保護期間は演奏、録音された日から70年間であり、打ち込み音(DTM)のような誰でも再現できるようなものには与えられない。
 もちろん、演奏する楽曲に著作権がある場合は、権利者や著作権管理事業者に事前に許可を取る必要がある。YouTubeやTwitchなどの動画サイトではサイト側が著作権者に許可を取り、著作物の演奏が認められている場合がある。あくまでも演奏や実演だけであり、著作物をそのまま転載することは著作権の侵害にあたる。

他国での著作権の扱いーゲームの頒布とゲーム実況

 著作権法は他の国にも存在し、それぞれの国で保護期間や戦争などによる延長期間が設けられている。しかし、著作権に関する国際条約のベルヌ条約によって自国の著作権法での扱いが優先されているため、たとえ他国で保護下にあったとしても日本の基準でパブリックドメイン化している作品は自由に使うことができる
 ただし、内国民待遇が適用されるのはあくまでも日本国向けに使用する場合だけであり、頒布先の国で保護下にある場合には訴えられる可能性がある。日本は比較的に保護期間が短い国で、他国にならって期間を延長してきた経緯があるため欧米主要国よりも保護期間が短い。
 ゲームをストアで頒布する場合は配信先を日本に制限できるので、パブリックドメインの使用に関して争いが起こることはほぼないだろう。しかし、利用者がゲームを配信サイトで利用する場合には、他国の著作権法も考慮する必要がある。
主要配信サイトが存在するアメリカは著作権保護期間の長い国だ。また、著作隣接権が法律で定められておらず、演奏に関しても通常の創作物と同等の著作権が与えられる。著作物がどうかの判断はまずAIで行われるため、アメリカで完全に著作権が切れたものに使用を限定する場合、1925年以前の録音を使う必要がある。曲自体の著作権はそれ以前に切れている場合もあるので、フリー音源の演奏や、独自に演奏したり、独創性のない機械音で再現しても使用することができる。

保護下にある著作物の使用

 たとえ著作権が切れていないものであっても著作者の許諾を取れば使用することができる。日本の場合、著作権管理団体であるJASRACに許諾を求めることになるだろう。他国の著作物を利用したい場合も同様だ。たいていはJASRACが他国と管理契約を締結しているため、JASRACの許諾があれば著作物を利用できるようになる。
 保護下にある著作物は許諾があればゲームに使用できるようになるが、著作権が譲渡、放棄されたわけではないのでゲームに含める以上のことはできない。そのため、ゲーム利用者が動画やストリーミング配信する際には著作権の侵害となるため広告が剥がれることになる。
 この問題への対処としてFortniteは既存の楽曲を再生しない設定を追加し、サイバーパンク2077はストリーマーに配慮してゲーム内で使用する楽曲を全てゼロから制作することを発表した。

まとめ

 著作権を知らずに創作するのは他者の権利を侵害するだけでなく、利用者の怒りを買うことにもつながる。なによりも著作権の侵害は犯罪であり、創作者を蔑ろにした許されざる行為だ。もちろんこれは音楽だけでなく、プログラムのコードであってもライセンス違反しているのならば著作権侵害になる。
 しかし、著作権は難しい概念であり、インターネットがそれをさらに複雑にしている。個人開発者では到底把握しきれないうえに、配信サイトには著作権ゴロのような自分の演奏に似ていないものにも著作権を主張して収入を得ている者もいる。
 そこで素材を選ぶ際は下図を基準に選ぶのがよいだろう。どうしてもクラシック音楽のような既存曲を使いたい場合は機械音とわかるような素材を選ぶのが安全だ。しかし、ゲーム実況を前提とするならば、フリー音源と一般に認められたものやアセットストアの音源を使うほうが、世間に広く認知された曲を使うよりは事後処理が減るだろう。


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*1 国にお金を支払って能動的に著作権を登録することも可能。著作権の所有がはっきりして他者に著作権を主張された場合など争う際に有利に働く。プログラムなら五万円弱+弁護士への手数料でできるようだ。

*2 著作権法は何度か改正されており、期間にも変更がある。最後に変更されたのは2018年であり、50年から70年に延長された。保護期間は不遡及であるため、一度パブリックドメイン化した著作物に再び著作権が与えられることはない。そのため1967年の著作物はパブリックドメインだが、それ以降の作品は2038年まで著作権が切れることはない。

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